東京家庭裁判所 昭和33年(家)7435号 審判 1958年6月30日
申立人 野原市郎(仮名)
相手方 本田大作(仮名)
参加人 小山光枝(仮名)
主文
要扶養者野原清子に対する扶養については現状の通り申立人野原市郎と参加人小山光枝の両名において扶養に当り、その扶養内容及び義務分担の割合については、両名協議の上定めること。
相手方本田大作は特段の事情のない限り当分の間扶養義務を分担するを要しない。
理由
一、申立人の申立の趣旨は要扶養者野原清子の扶養料として昭和三十一年十月以降毎月一万円宛の支払を求めるというのである。
一、本件扶養申立の経緯
申立人はその長女である参加人の婿養子として申立人の妻の実弟にあたる相手方を迎え、その間に長女清子(昭和十六年○月生)長男克男(昭和二十二年生)、二男克二(昭和二十六年生)の三子を儲けたが、参加人に面白くない行為があつたので、昭和三十年五月当裁判所で子の親権者を何れも相手方と定めて調停離婚をした。その離婚に際しての財産関係の解決については、その離婚は参加人の有責行為に基くものであるから慰藉料等損害賠償請求権は夫側にあつたが、夫としてこれを請求する意思がないのみか、却つて妻に対して将来若干の財産分与をすることに定めたものである。それというのは妻光枝の父である申立人は所謂娘婿である相手方に対して深く娘の不行跡を陳謝し、娘と離婚した後も依然養親子関係を存続さすことを望んでいたことと、又相手方も申立人より事業を譲受けていたなどの関係から、将来妻光枝の所業が改まつた頃に相手方より妻光枝に対して若干の財産分与をすることに話合がきめられたものである。
しかし申立人と相手方の養親子関係も、参加人が離婚後も依然親許に出入するため、自然気まずくなり、そのため昭和三十年十一月当裁判所に対して離縁調停の申立をしたが、其の調停の折衝において依然縁組を存続することと、そのためには養親である本件申立人は娘である参加人光枝を家に出入させぬことにし、ただ同参加人の生活保証のため本件相手方及び申立人が参加人に金七万五千円を支払うこととして調停成立したものである。
ところが、右のような話合が成立しても申立人と参加人の間柄は時がたつにつれて親子の縒をもどすとともに、申立人と相手方との間は冷たくなつてきたので相手方は昭和三十二年四月当裁判所に再び離縁の調停の申立をなし、その調停手続で数次に亘つて話合がなされたが、結局離縁に伴う財産関係の問題で話合がつかなかつたので、昭和三十二年九月離縁並に財産関係について所謂強制調停がなされ、偶々それが異議なく確定し、それにより離縁が成立したものである。尚右の強制調停において財産関係については、既に相手方が養親より受けついだ紙箱製造販売事業(若干の機械と借家権)は相手方の権利に属することを認めると共に、相手方は申立人等養親に対して右代償その他清算の趣旨にて金三十万円を即金五万円、残金は毎月一万円宛支払うこと、申立人と参加人との間の扶養については別にその当時の事情によつて定めることに定まつたものである。従つて申立人は右の強制調停の趣旨に基いて本件扶養処分の調停申立をしたものである。
一、扶養権利者
申立人は、相手方と参加人間の長女清子についての扶養処分として扶養料の支払を求めるものであるが、同女は昭和十六年○月生れで、現在相手方の親権に服しているが、相手方と起居するを好まぬため、申立人等の許にて生活しており、且昭和三十一年九月頃より肺結核に患り療養の必要から職についていないような状態である。
従つて申立人等が現在その全生活費を負担しているものであるから、相手方にその扶養費用の分担を求めるというのである。
一、扶養義務者
要扶養者に対する扶養義務者については、その相手方と参加人が親として最先順位の扶養義務者であり、その扶養程度も最高度の義務を負担すべきものであつて、次で申立人及び同申立人の妻野原しげが同居の祖父母として扶養義務者となると解するを相当とするから、本件において特に扶養権利義務関係に立つ者のうち要扶養者の母親である野原光枝を職権にて参加せしめたものである(尚扶養審判事件においては必ずしも扶養関係当事者の全員を参加せしめる必要はないものと解する)申立人は明治二十六年生であつて、その所有家屋(一七坪)に妻(明治三十二年生)参加人夫婦及び孫清子と共に居住しており、現在無職であるため、相手方より仕送られる前述の月々の一万円と貸間代によつて生活をしていると云つているが、その生活状況より判断すれば、それ以上の生活している模様である。
申立人の妻は勿論収入を得ているわけではない。
相手方は明治四十五年生れであつて、参加人と離婚後は末の子二名を引取り養育してきたものであるが、手不足から最近後妻ゆき子を迎えその協力を得て、申立人より承継した紙箱製造販売業を営んでいるものである。現在毎月三万円位の収入を得ているが、申立人及び参加人等に対して前述した金員を支払い、尚今後も月々申立人に一万円宛の支払義務を負担していること、並参加人との間の子二人を扶養していること等のためそれ以上の仕送りは困難があるし、又その必要はないという。
参加人は引続き小山某と夫婦として共に申立人方に起居しているものであつて、小山某は現在紙箱製造の職人として働いており、それ相当の収入を稼いでいるわけである。
一、扶養処分内容
叙上のように相手方と申立人夫婦の間の離縁事件の強制調停によつて、要扶養者清子の扶養については、別に定めることとなつたが、現在のところ相手方は同子の親権者であるけれども、清子は申立人等と同居のつながりか、相手方に赴くことを好まず、そのため申立人及び参加人の膝下にて起居しているものであること相手方は清子の外に尚その親権に服する子二人を扶養していて、この子達の扶養については参加人は全然その義務を分担していない点その他相手方は現在月々一万円を申立人に対して送金している事情を参酌すれば参加人自身も同居の清子に対してその祖父である申立人等と共同して全扶養義務を負担して然るべきであるものと考えられるので主文のように審判する。
(家事審判官 村崎満)